お抹茶のすべて 8 【「抹茶問屋の仕事」その2】

読者の皆様、こんにちは。1月号では「宇治煎茶の主産地和束町はいかにして宇治碾茶の主産地になったか?」、2月号では「和束町碾茶の現状」について、3月号4月号5月号6月号では「抹茶の歴史」について、7月号では「抹茶問屋の仕事」その1についてお話しさせていただきました。8月号は「抹茶問屋の仕事」その2です。


1、宇治茶況
今日は平成28年6月26日(日)です。京都茶市場では6月16日(水)より2番茶揉み茶の入札販売会が始まり、6月20日(月)より2番茶碾茶の入札販売会が始まりました。1番茶の入札実績表を見ると、総数量1030トン、総金額33億円、総平均単価3222円で昨年度実績とほぼ同じです。しかし、内容は大きく変化していて、煎茶、かぶせ茶の数量がともに20%減と大幅に減少しています。両茶種で約85トン減っています。
それに対して大幅に増加したのは初茶碾茶で、数量で約100トン増、27.8%増の440トンとなっています。初茶碾茶の平均単価は4020円で、昨年度(4717円)の85.2%となりました。京都茶市場の販売金額の約60%が碾茶です。
2番茶はまだ2割も進んでいませんが、2番茶かぶせ茶の平均単価は1412円、煎茶は1136円とやや強含みです。2番茶碾茶は2123円とやや弱いようですが、これから品質が良くなれば平均単価も上がって行くと思います。

2、碾茶の買い方
(1)碾茶の買い方……場所と人を選ぶ
煎茶、玉露、深蒸しなど色々な茶種がありますが、ここでは抹茶の原料である碾茶の選び方について、京都茶市場での私の方法(あくまで私のやっている方法でこれがベストと言うことではありません。)を説明します。全国には京都と奈良以外は碾茶の入札はありませんが、茶問屋が多くの見本の中から、どのように茶を選ぶのかのヒントにはなるかと思います。

① 湯をすること。
碾茶を仕入れる時には荒茶と浸出液と茶殻を審査して値段を入れます。京都茶市場の場合、全ての碾茶荒茶見本に浸出液と茶殻がセットされていますので、基本的には自分で湯をする必要はないのですが、自分が仕入れようとする碾茶があちらこちらにバラバラにあるため、比較審査することが困難です。そのために、毎回自分の買いたい碾茶6~10点を見本盆より取って、自分で湯をして審査します。自分で湯をすれば、碾茶の香りと味と色の比較審査ができます。お点前用の碾茶の香りを審査しないで仕入れるのはリスクが大きいと思います。しかし、加工用の碾茶はほとんど自分では湯をしません。特に2番茶の碾茶では茶殻の審査を最優先し、香りや味は二の次にします。その理由は2茶碾茶は全て加工用なので、その挽き色が最重要視されることと、2茶碾茶の香りや味は品質的な格差が
1茶碾茶より少ないためです。

②しぼること。
店で仕入れをする時には、全てのお茶の湯をしますが、京都茶市場では1回の締め切りに150点くらいの見本が並び、それを初回は90分、2回目の締め切りからは60分で審査し、入札しなければいけないために、全てを自分で湯をするのは不可能です。そのために湯をする(審査する)お茶をあらかじめ絞らなければなりません。
私の絞り方は
(ア)場所を選ぶこと。
しぼり方の第1はまず「場所」を選ぶことです。
昭和時代の産地はほぼ宇治と西尾の2産地でしたが、現在では10府県以上で碾茶が生産されています。
我社は宇治抹茶を製造販売していますので、京都府のほか滋賀県、奈良県、三重県で生産される碾茶を利用することができるのですが、今のところ京都府産だけに仕入れを絞っています。
京都府下の碾茶産地も北は丹後から南は南山城村まで10産地ほどあります。各産地ごとにその場所の特徴がありますので、その土地の土質と気候風土と栽培方法と歴史を良く知っておく必要があります。
碾茶で三拍子そろった茶とは第1に香りが良く、第2に味がうまく、第3に色が良い茶のことです。
碾茶の合組の基本は「三つ合」(みっつごう)と言い、色々な茶を合組して、香りがよく、味がうまく、挽き色が良い抹茶を作りだすことです。
単品で三拍子がそろった碾茶もありますが、その茶は非常に高価で単品では販売価格に合いません。そのために、味のお茶と香りのお茶と色のお茶を仕入れる必要があります。
「三つ合」のうち、味は人がつくることが可能です。しかし、同じ肥培管理をしても場所によって和三盆のような上品な甘みと、黒糖のような強烈な甘みのような微妙な違いは出てきます。
色は場所と人との合作です。「松の緑と竹の緑」と言われるように、土質の影響が一番ですが、人の被覆技術でカバーできる部分もあります。香りは場所がつくります。碾茶だけではなしに、煎茶、玉露、焙じ茶、釜炒り、など深蒸しを除く全てのお茶において、香りのお茶を見つけることが一番難しい仕事です。多くは「竹の緑」の場所が香りのお茶の場所です。
色と形は素人でも判断できます。味は何年か経験を積めば分かるようになります。香りの判断はその人の先天的な資質が大きく左右しますので、経験によって、または学習によって補うことはできますが、一番難しい判断です。
合組の基本の「三つ合」で価格が合わない場合、「落し」をいれて「四つ合」にしなければいけない場合が多々有ります。「落し」は香りと味の邪魔をしないで、価格を下げてくれるお茶です。「落し」は香りのお茶、味のお茶ではなく、色のお茶を使うことが重要です。
また、同じ市内、町内でも地区によって土質、気候が違いますので、各産地の各地区を回って茶園の現場を見ることが必要です。現場に足を運びましょう。
香り、味、色、落し、を仕入れる場所は自分で考えましょう。

(イ)人を選ぶこと。
場所(産地)と地区が決まっても、各地には生産者がいっぱいおられます。
全ての生産者のお茶を試験することは不可能なので、次は人を選びます。茶市場では、その人の茶園や製造工場に行ったことのある人の茶を審査することが多くなります。
昔、お茶屋になった頃に「茶を選ぶより、人を選べ。」と教わりました。その頃は何のことか分かりませんでしたが、「人を選べ」とは、その人の住んでいる場所、栽培、製造と人柄を選ぶということだと思います。この頃は、特に人柄が大切だと感じるようになりました。

(ウ)品種を選ぶこと。
京都茶市場の碾茶入札には20種類以上の品種が出てきます。
そのうちの約50%がやぶきたです。やぶきた、さやまかおり、おくみどりなど静岡品種をはずせば入札が楽になるので、なるべく宇治品種を中心に見るようにしています。


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