お抹茶のすべて 9 【「抹茶問屋の仕事」その3】

読者の皆様、こんにちは。1月号では「宇治煎茶の主産地和束町はいかにして宇治碾茶の主産地になったか?」、2月号では「和束町碾茶の現状」について、3月号4月号5月号6月号では「抹茶の歴史」について、7月号8月号では「抹茶問屋の仕事」その1、その2について書かせていただきました。9月号では「抹茶問屋の仕事」その3についてお話したいと思います。

1、宇治茶況
今日は平成28年7月27日です。京都茶市場では28年度産茶の止市(とめいち)が行われました。例年より早く4月20日の初市で始まった京都茶市場では、今日までの98日間で70回の入札販売会がありました。総取引数量は約1500トン、総金額は約42億円、総平均単価は2823円で、数量、金額、平均単価とも前年対比約101%でした。
1番茶碾茶の生産数量は約30%増、105トン増加の450トンになりました。1番茶碾茶の平均単価は昨年度4717円に対して15%安の3987円でした。28年度の1番茶碾茶は27年度に比べて品質が良かったので、2割以上安値だった感覚です。
月刊「茶」8月号で、「2番茶碾茶は2136円とやや弱いようですが、これから品質が良くなれば平均単価も上がって行くと思います。」と書きましたが、7月8日以降の平均単価の上がり方はものすごく、7月15日以降は2700円台の平均単価が続いています。
2茶碾茶の生産数量は7月27日現在254トンで、昨年対比16%減です。8月にあと4,5回の臨時入札会が予定されていますが、最終的には10%減になりそうです。
2茶碾茶の平均単価は、27年度2285円に対して10%高の2511円です。品質があまり良くないのに平均単価が1割上がっているので、2割以上高値の感じです。特に下物の1000円台の2茶碾茶は異常な高値です。京都茶市場の2番茶売上金額の約8割が2茶碾茶の売り上げになりました。
2茶かぶせの平均単価は約1400円です。揉み茶と碾茶の加工賃の差を600円とすると、2茶碾茶の平均単価は2000円でかぶせと釣り合います。2茶碾茶の1反当たりの平均収量は、2茶かぶせの平均収量の110%から130%はあるので、1800円でも釣り合うと思います。
よって、2茶碾茶の平均単価が、2茶かぶせの平均単価プラス600円になるまで、平成28年度でいえば平均単価2000円になるまで、京都の碾茶生産は増え続けることになるでしょう。京都では来年度までに、5機の新しい碾茶炉の建設が決まっています。

2、合組
碾茶の仕入れが終わると次の仕事は合組です。抹茶の原料である碾茶も単品で挽かれる事は稀で、煎茶や玉露と同じように合組をします。碾茶の合組の基本は「三つ合」で香、味、色の三つを合することが基本です。しかし、実際の私の合組では「四つ合」をします。「四つ合」とは、香、味、色と値を考慮にいれて合組します。単品の碾茶で「三つ」ともを兼ね備えた碾茶は少ないですし、あっても値段が高いものです。そこで、「三つ」は兼ね備えてはいないが、一つは特徴のある碾茶を組み合わせます。
私の「四つ合」の一例を紹介します。

第1の「香」の碾茶は、木幡、宇治の山手の碾茶です。良い香り、「地香」があります。臼で挽いていてもすごく良い匂いがします。
しかし、挽き色が白っぽく、所謂「竹のみどり」です。また、新茶時期は味がきついものが多く、年を越してからしか味がまろやかになりません。そのために、新茶時期は古茶(ヒネチャ)を中心に使い、年を越してから新茶を増やします。
第2の「味」の碾茶は、川筋の肥料の効いた碾茶です。香りはいまいちですが新茶時期でも濃厚な旨味のある碾茶があります。
第3の「色」の碾茶は河川敷周辺の砂地や山でも砂を含んだ土質でとれるお茶です。挽き色が濃い緑、所謂「松のみどり」です。新茶時期から味がまろやかですが、冬を越すと味落ちするものがあります。
第4の「値」の碾茶は各商店の秘密です。値段が安く、味や香りに嫌な特徴がなくて挽き色の良い碾茶を選びます。
これら「4つ」を考慮しながら合組をしますが、一番難しいのは「香」の茶です。
合組は季節によっても違う合組をします。新茶時期と秋から冬の時期と年を越して冬から春の時期の三時期です。
宇治では、碾茶や玉露の合組に「古茶(ひねちゃ)」を使います。最低でも、新茶時期から秋までは「古茶」を入れないと抹茶や玉露の製品は合組できません。
我社では1年中、合組に「古茶」を配合しています。しかし、どんな碾茶でも「古茶」に残して良いのではありません。どんな茶を「古」にするか、「おとし」に何を使うかは、各問屋の秘密です。皆様、研究してください。お茶は一生勉強です。
私の経験では、3種類の茶で原価10、000円の合組をする場合、9,000円と10,000円と11,000円の3種類を合組するよりも、5,000円と10,000円と15、000円と価格の離れた3種類を合組する方がより良い製品になると思います。これは玉露の合組にも言えると思います。

 

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