お抹茶のすべて 3-2 【抹茶(碾茶)の歴史…その1「栽培」「品種」】


2、品種

(1)碾茶品種の歴史
日本に初めて茶の木または、茶の実をもたらしたのは今から約1200年前、遣隋使、遣唐使として中国へ渡った最澄、空海、永忠らだと考えられています。
栄西以降、抹茶に使用された茶樹は昭和10年代までは全てが在来実生でした。抹茶・碾茶の世界において最初に品種育成を始めたのは京都府宇治郡東宇治町の平野甚之丞で、昭和6年(1931年)ころです。これに続いて昭和9年(1934年)ころから久世郡小倉村の小山政次郎が始めました。
京都府立茶業研究所が系統選抜育種に着手したのは、昭和14年(1939年)からです。平野甚之丞が選抜した「あさひ」「駒影」、小山政次郎の選抜した「さみどり」、茶研の選抜した「宇治光」「ごこう」などは、それまでの在来実生の碾茶に比べて非常に優秀で、宇治品種として宇治碾茶、宇治抹茶の品質の優位を保つカギになっています。
実際に品種茶園が増えだすのは昭和40年代になってからです。現在京都府下の1番茶碾茶の品種は薮北52%、おくみどり19%、さみどり10%、在来5%、狭山かおり4%、五光3%、駒影、金谷みどり、あさひ、宇治みどり、宇治光各1%、その他(ヤマカイ、サエミドリなど)2%となっており、品種95%、在来実生5%です。この中で注目される品種は「おくみどり19%」で、全国でのおくみどり栽培割合に比べて、非常に高い割合です。おくみどりの葉緑素含有量は、やぶきたを1週間被覆したものと同等で、非常に挽き色の濃い碾茶です。
その味は渋味が強く、お点前用の抹茶としてはあまり使えませんが、食品加工用として利用した時は、その苦渋味がミルクや砂糖に勝り、抹茶らしい加工食品になるため非常に評価の高い品種になっています。


(2)品種の特徴(碾茶にした時の特徴です。あくまで私の評価です。)

さみどり
手摘み碾茶では一番栽培面積、生産量の多い品種である。久世郡小倉村の小山政次郎氏の選抜した品種である。晩生で摘採適期が長い。おさえが利く。シノが太く歩留まりが悪い。終番のさみどりでは荒骨が30%あることもあり、55%しか歩留りのないこともあるので、荒骨の量を考えて値を考えることが重要である。味、香りともに、宇治在来系の旨みの感じる香味です。反収も多く、歩どまりの悪さを除けば優秀品種である。

あさひ
現在、碾茶品種の中で一番高値で取引される品種である。宇治郡宇治村の平野甚之丞氏の選抜した品種である。早生で適期が短い為に栽培面積を増やすことが難しい。適期を逃がすと品質の低下が著しい。反収も少ない為、価格は高い。葉薄く、ミルメあさひの香りは抜群である。

ごこう
露地で育てると芋臭い香りが強いが、覆い下にすると芋臭さはなくなる。玉露でもそうだが、旨みの強い品種である。久世郡宇治町の西村氏の在来より京茶研が選抜した中生の品種である。

宇治光
宇治在来品種らしくおとなしい品種である。「あさひ」とともに旬が短いが、品質は「あさひ」同等に素晴らしい。久世郡宇治町の中村藤吉氏の在来より京茶研が選抜した品種である。

駒影
あさひと同じく宇治郡宇治村の平野甚之丞氏が選抜した品種である。葉が小さく、碾茶よ
り玉露向きだと思う。

やぶ北
ハサミ刈り碾茶の栽培面積としてはやぶ北が一番多いし、生産量も一番多いと思う。しかし、筆者は基本的にはやぶ北の碾茶は購入しない主義である。その理由は、やぶ北は静岡品種であり、煎茶品種としては優れていても碾茶品種としてはもう一つ好きではないこと。元々葉の色が黄色く染まりが悪いこと。ハサミ刈りの場合、入札の早い時期に出るので品質の割に価格が高いこと。などである。入札の時にやぶ北を外すと入札が楽にできる。

おくみどり
葉緑素(クロロフィル)の含有量が多い。おくみどりの露地物の葉緑素はやぶ北を一週間被覆したものと同じ程度である。葉緑素が多い為に挽き色が良い。味は渋味が強く点前用には適さず、食品用、加工用抹茶として最適品種である。特に二番茶のおくみどりは人気がある。和束町がハサミ刈り碾茶の生産地として成功した背景には、おくみどりの栽培面積が多かったこと、かぶせの技術が進んでいたこと、近くに宇治があったこと、産地表示問題が起こった事などが考えられる。

在来
宇治に生えている在来であるから宇治在来である。昭和40年代では在来がほとんどであった。在来は全て劣っていると思われがちであるが、在来でも旬にできた碾茶の中には素晴らしい香味の碾茶があった。同じ生産家の同じ畑の碾茶を入れ付けで扱っていると、10年か15年に一回、素晴らしい出来の年に当たる。「入れ付け」茶は10年のうちまあまあの年が6,7年、目も当てられない悪い年が3、4年、素晴らしい年が1年あるかないかである。毎年同じレベルの茶を作るのは品種の場合より難しいと思う。その代りに、大あたりの年の在来茶は、今の品種ではまねのできないくらい素晴らしいと思う。

さやまかおり
やぶ北と同じく静岡品種である。筆者は基本的には入札しない品種である。理由はやぶ北と同じである。しかし、生産者にとっては反当りの収量が多いのが魅力的である。

さえみどり
最近、手摘みもハサミ刈りも少しずつ増えてきた品種である。片親があさつゆであるが、あさつゆのようなイモ臭さは少ない。味は旨味が利きやすい。香りはもうひとつだと思う。これから増えそうな品種である。

宇治みどり
京茶研の選抜した品種である。味に厭味な苦渋味がある。

京みどり
京茶研の選抜した品種である。芋臭い香りが強い。

寺川早生
寺川俊男氏が選抜された品種である。名の通りあさひより早い早生である。早生の割に反収が多いが碾茶としての品質があまり良くないという評判である。

成里乃
堀井信夫氏が選抜された品種である。旨味はすごく強いが香りが芋臭いとおもう。奥の山の香りの方が宇治らしくて好きである。購入したことがないが、品評会の審査をして感じたことである。

碾茗
京茶研が育成した品種。母親が「さみどり」で、父親は不明だが「あさひ」らしいという
品種。摘採した生芽と製品の落差があり、生産者の評判はあまり良くないが、私は香味とも好きです。

現在のハサミ刈り碾茶の栽培は、「やぶ北」と「さみどり」「おくみどり」を中心に組み合わせるのが良いと思います。

(2016年3月掲載)


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