お抹茶のすべて 4-2 【抹茶(碾茶)の歴史…その2「茶期」「摘採」「製造」「加工」】

6、加工
(1)加工の歴史
栄西以降大正時代まで、抹茶は点てて飲む人が茶臼を手で回して挽いたものでした。
茶磨(ちゃうす)は中国から伝えられたものです。鎌倉時代に栄西が「喫茶養生記」を著し、宗の「抹茶法」をわが国に伝えましたが、その時の茶を抹茶にする道具は「茶研」=「薬研」(やげん)でした。
中国の唐代、陸羽の「茶経」時代、茶を粉末にする道具は「碾(てん)」=木製の「薬研」でした。宋代になって、銀製や鉄製の薬研が造られ、北宋末の1100年頃「茶磨(ちゃうす)」が造られだしたと考えられています。
1300年代後半南北朝期の西本願寺「慕帰絵詞」には漆塗りの茶臼の絵が描かれています。又同時期の「酒飯論絵詞」には茶臼で抹茶を挽く図が描かれています。この頃、日本では茶臼は作られていません。よって、茶臼はすべて中国から伝来した唐茶磨(とうちゃうす)でした。
金沢文庫に「なによりも、ちゃうすこそ、まづほしく候つれ」とあるように、唐茶磨は非常に入手困難でした。茶磨の国産化が進み、権力のある人たちは茶磨を作らせるようになったのは、15世紀中ごろになってからです。
唐茶磨や日本で作られた中世の茶臼は、臼周辺部の目が立っていない擦り合わせ部分がなく、臼の目が周縁まで達しています。手挽き臼で上臼が軽いうえに目が周縁まで達しているので、これで挽かれた抹茶は相当に粗い抹茶粒子であったと考えられます。
抹茶が手挽き臼から機械臼に移行したのは、明治時代末から大正時代(1910年代)にかけて電力が使用できるようになってからでした。今から約百年前のことです。また、現在のように冷蔵設備のある抹茶室で機械臼を稼働して長時間連続して抹茶を挽くことを考案したのは、宇治の小山政次郎で昭和の戦前のことでした。
現在全国に何台の茶臼が稼働しているのか?茶臼台数の統計はありません。
筆者の推計では、京都に約4000台、愛知県に約3000台、その他の県に約500台で全国に約7500台の石臼が稼働していると考えています。
茶臼一台の一時間の挽き茶量は約40グラムです。40g×10時間×250日=100kgで、茶臼一台の年間挽き茶生産量は平均100kgだろうと考えられます。よって、7500台の茶臼で一年間に挽ける抹茶の量は750トンになります。昭和60年(1985年)頃から、抹茶の加工に粉砕機の使用が増加します。
これは、価格の安い抹茶の需要が増大したことによります。現在製造されている「抹茶」の約2割が石臼挽きによるもので、残り8割の抹茶は粉砕機によって加工されていると考えられます。

(2)簡易碾茶=「モガ」と粉砕機の研究の歴史
簡易碾茶の研究は京都府茶業研究所において昭和8年(1933)より始まっている。「所謂碾茶機械と特定されたものを用いる事なく、既設の製茶機械を利用し、部分的の改良を行って完全とは言い難いまでも、碾茶の製造は出来ないものであろうか?」として、「橋本式葉打粗揉機を改造応用した碾茶簡易製造法につき調査研究を行った。」(京茶研彙報第9~11)
「橋本式葉打粗揉機の揉手を全部取除き、胴内面に茶葉を持ち揚げる凸板(約7糎)を8か所に取付け、換気を充分ならしめるために排気口を大きくし、之に伴う扇風機翼を大きくし、回転数を少なくし(胴1分間12回転、扇風機224回転)で研究した。生葉量は約1瓩を採り蒸し速度20秒とした。」「第2回調査の成績によれば碾茶機械による製品に比し形状は縮み黒味を帯び、良好ではないけれども重なり葉は割合少なく、香味に於いては挽茶式の香を含み甘味又濃厚である。」
上記のように簡易碾茶の研究が始められたが、これは日本国陸軍、海軍の要請で、軍需用に安く抹茶を製造する必要があった為です。そのため茶臼に代わる粉砕機の研究にも着手しています。それは京都府茶業研究所において昭和11年(1936)より開始された碾茶指定試験です。
その中で茶研は「碾茶の製粉に関する調査」としてボールミルなど粉砕機による碾茶の抹茶加工研究を始めています。これも用途は軍需用です。昭和51年には京都府茶協同組合において碾茶粉砕機(セラミック)研修会が開催されています。

(3)粉砕機の種類
「宇治は粉砕機の墓場」とも言われるように、過去には色々な種類の粉砕機が試されては消えていきました。粉砕機を粉砕外力で分類すれば圧縮粉砕、衝撃圧縮粉砕、剪断粉砕、摩擦粉砕に分類されます。現在多く使用されている機種はセラミックボールを用いたバッチ式のボールミルか連続式ボールミルです。機種によって一時間あたりの生産量は異なるが、一時間1キロから10キロくらいで茶臼25台分から250台分の生産量です。

(4)抹茶と粉砕茶(粉末茶)の違い(粒度と粒子)
茶臼で挽いた抹茶の粒度は5~20ミクロンの粒子が多い。粉砕機を使用した粉末茶でも粒度5~20ミクロンは可能であるが、品質が低下する為に抹茶よりは大きい粒度の粉末茶が多い。また、抹茶の比表面積は14000~15500㎠/gが多い。
粉末茶の比表面積は12000㎠/g以下で10000㎠/g前後のものが多い。大西市造氏は14000㎠/g以上の粉末を抹茶としそれ以下は粉末茶と区別するべきであると云われています。
茶臼で20000㎠/gの微粉を要求する事は到底困難であり、かりに超微粉体抹茶が得られたにしても、「分散」や「泡立ち」は良くなるが、「香」や「味」が淡白となり、抹茶本来の風味は消滅することになります。抹茶の粒子の形状は長ぼそいものが多い不定形であり、粉砕茶の粒子の形状は球形です。そのために粉砕茶の嵩(かさ)は抹茶より少なくなります。抹茶粒子は不定形の為空気を抱きやすく嵩が大きくなります。

 

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